やってみなけりゃわからない

(この記事は2020年12月7日、8日、9日に投稿したものをまとめて加筆修正したものです)

 

やる前にこだわってることと、実際に行うことで出てくる感情には随分と違いがあって、いくら前もって想像してみても、実際のことをちゃんと把握はできないものです。

私は、室内で動物を飼うのが嫌ですが、あるとき縁あって柴犬の子犬をもらうことになりました。室内で飼いたい嫁氏に対し、私は絶対反対で外で飼うつもりでした。

しかし、ここで事件がおこります。

もらってきたその日に、私の不注意から、その子犬に逃げられてしまったのです。

時期は1月、連れて帰ったのが夕方でもう日が暮れる頃でした。

嫁氏が運転で助手席に子犬を抱っこした私、その子犬は車が苦手なようで、途中でゲロを吐いてしまいました。私の服だけで留めてなんとか家に辿り着き、シートを汚さないように、まずは車酔いしてヘロヘロになってる子犬を地面に置いたんです。ふらふらしてる子犬、私もゲロをこぼさないようにそろりと車から降りました、おかげで車への汚れは最低限で済ませることができましたが、かわりに、地面に置いた子犬がどこかに消えてしまいました。ちょっと目を離した隙に逃げてしまったのです。

あたりは真っ暗、見失った子犬をゲロまみれの服のまま探しましたが、その日、見つかることはありませんでした。

もう、この時点で、見つかる気がしません。そりゃそうです。つれて来ただけで、まだ飼ってないんです。ただ運んできただけの人に懐くこともなく、子犬にしたら、駐車場までしかきておらず、ここが帰る家にはまだなっていないのです。

とにかく暗いところで探してもどうにもならないということで、その日は探索を諦めたんです。

明けて次の日、うちは山を背負った場所にあるので、もしかしたらそこに潜んでいるかもしれないと、そこに入っていきました。そしたら、なんと!いきなりそこで、子犬とばったり出くわしました。

捕まえようとする私に対して、もちろん逃げようとする子犬、ここで第一回、大捕物帳が開始されます。走る子犬を追う私、足場の悪い山のなかを追いかけっこです。子犬にしても足場が悪いのでしょう、道路に出ていきました。私も走って追いかけますが、子犬といってもさすが柴犬、すばしっこくて追いつけません。道路に出て家の方に逃げてく子犬、追う私、家の囲いでくいっと90度転回して逃げてく子犬に私の足がついていかず、子供の運動会のお父さんばりに、そこで大転倒。また、子犬は山の中に消えていきました。

残念ながら取り逃がしましたが、ひとつ、山の中に潜んでいるというのが分かり、これはなんとか保護できるかもしれないと一縷の望みが出てきました。

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逃げられた当日は、子犬のもらい先との間に入ってくれた友人も飼い犬を連れてきて、後から動物好きのその娘まで来てくれて、夜更けまで捜索するものの見つけることができませんでした。

あけて翌日、何気に私が山の中に入っていったら、そこでばったり出くわし、逃走劇があったのは前述のとおりです。

そしてその日、まずは役場に状況を報告しました。そこで、保健所で罠を借りてはどうかというアドバイスをもらい、一路保健所へ。

まだ子犬、しかも首輪もなにもない無垢な状態から、誰かに拐われてしまわないかという心配も逃げられた直後にはありました。しかし、どうもあの子犬は臆病なようだから遠くには行かないのではないか、それとあのすばしっこさ、そしてひと懐っこさがまるでないことから、そういう心配はないかなという妙な安心感はありました。唯一、逃走劇を経験した実感です。

保健所から野犬生け捕り用の罠を借りてきました。とくに子犬用とかではないので鉄の格子のガッチリした檻でした。そこで職員に「一度失敗すると、もう入らなくなっちゃいますから慎重に」と言われ不安になりましたが、とりあえず持ち帰りそれを山のそばに設置しておきました。

しかし、簡単には入りません。罠には入らないですが、昼間、近くの畑に出てきては日向ぼっこをしている子犬の姿を何回か嫁氏が目撃します。

うん、やっぱり山が潜みやすいのかそこを抜けて遠くには行かなそうだぞと、腹が減れば罠のエサに来るはずだ。山を背負ったこの家の立地がよかった。じっくり待つことができる。

しかしこれがなかなか警戒心が強く罠に入りません。でも、夜寝室で寝ていると外から「きゅんきゅん」と鳴き声が聞こえることがあったんです。山の近くのこの家を気にしているのは明らかでした。

2日目の夜には子犬の母犬に来てもらったり、親戚で飼ってる柴犬に来てもらったり、なんとか誘き出せないかいろいろやってみましたが、反応はありつつも、捕まえるまでには至りませんでした。

保健所で借りてきた罠ひとつでは足りないからと、私の父親が畑を荒らすアライグマやハクビシン用に仕掛ける罠もセットしようということになって、それは保健所の鉄格子のガッチリしたものではなく、網張ってあるカゴのようなものです。そこにエサをセットして、嫁氏が日向ぼっこを目撃したあたりに置いておきました。

そして、運命のときがきます。

4日目の昼近く、そのカゴに何かが入りました。ホコリと体につく草のタネだらけで小汚い生き物でしたが、私が車で連れてくるとき「こまちゃん」と呼んでいたように、目の上にあるくぼみがいかにも困った顔のような子犬、まさに逃げられたあの子犬でした。

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さっそく、嫁氏が汚れた子犬をシャンプーしてキレイにしてあげました。

逃げられたばかり、とりあえずは保護して家の中においておきました。

この時点では、まだ私はやはり家の中で飼うつもりはありませんでした。犬小屋を用意したら外で飼うつもりでした。

しかし、保護した次の日、また事件が起こったのです。

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保護した当日、まだ子犬、時期も真冬で犬小屋も用意できていない状況だったので、ひとまず家の中に入れておきました。

一晩いっしょに家の中で過ごして、次の日、嫁氏も仕事があるので子犬をどこにおいておこうかと思いましたが、ちょうど私の実家に父親が手作りしたサンルームがあるので、そこにおいてもらうことにしました。

 

ちなみに実家の両親も犬を家の中で飼うという発想がありません。犬は番犬でしかありません。

そしてその日、仕事を終えて連れてかえりました。家の中に入れておくとオシッコをいつされるかわからないので、あたりは暗かったですが軽く散歩をしておこうと思いました。

飼い犬連れて一緒に捜索してくれた友人が、「首輪は抜ける可能性があるから、胴まわりで繋ぐやつの方がいいよ」と、子犬用のお古を持ってきてくれてましたので、それを装着して散歩に行きました。

とにかくいうことをきかない子犬で常にイヤイヤで思うように散歩もできません。しかたがないのでリードを引っ張るんですが、とにかく強情というか嫌がり方が半端じゃありません。友人が言ったように首輪だったら不安でしたが、胴まわりでつないでいるから大丈夫だろうと、そのままぐいぐい引っ張っぱります。すると一瞬、ぬるんっとして、直後、抵抗がなくなりました。

いったいどこがどうなってそうなったのかわかりませんが、あっさり抜けてしまいました。(プリンセス天功かよ)などと思う間もなく、拘束具から抜け出した子犬は、猛ダッシュで真っ暗な山の中に消えていきました。

また逃げられてしまいました。またもや首輪も何もない無垢の子犬状態です。もう絶望しかありません。嫁氏になんて言ったらいいのか。とにかく嫁氏に電話をして事態を説明して謝りました。「大丈夫、もう探してもどうにもならないからとにかく帰ってきて」と言われ家に戻ります。このとき私の頭をよぎったのは保健所職員の「一度失敗すると、もう入らなくなっちゃいますから慎重に」の言葉です。もう、罠で捕まえられないのなら、どうしたらいいのか。

家に戻ると平常を保とうとしていた嫁氏も泣き崩れます。最初の逃亡の4日間の、あの雲を掴むような捕獲劇をまた繰り返すのか。つれてきてからまだ1日しか飼えてません。さすがにもう捕まらないのではないか。このときばかりは2人とも半ば諦めかけていました。

夜動いてもどうにもならないというのは経験済みなので、次の日、ダメ元でまたカゴの罠を仕掛けようということにして、もし捕まったら今度は家の中で飼うという約束をしました。

開けて翌日、また父親お手製のカゴの罠を畑に置いておきました。

私もその日ばかりは仕事も手につかず、ちょくちょく現場に行っては双眼鏡で罠の様子を見ていました。

昼近くにまた現場に見に行くと、父親の姿があります。(あんまりうろうろしちゃうと出てこないから行かない方がいいのに)と思いながら手元をみるとカゴを持って、その中に何かが入ってるのが見えました。すぐさま双眼鏡で覗き込むと、なんと、生き物が入ってるじゃないですか。こんな真っ昼間にハクビシンが掛かることはないだろうし、だからと言って一度罠で捕まえてまた逃した犬も掛かることはないだろう。しかし確実に生き物はカゴの中にいます。茶色い生き物です。そうです「こまちゃん」です。

同じ罠に2度掛かる犬は稀なのかもしれませんが、その稀がこの子犬でした。相変わらず困った顔をしていました。

とにかくこうして2回目の逃亡劇はなんなく解決したのですが、さあ大変なのはこれからです。家の中で飼う約束をしてしまったから、ここから排泄物との戦いがはじまります。

トイレシートを置いても、まったくそこにしてくれません。別なところにしてしまうから、今度はそっちに敷いておくと、また別のところにします。延々とイタチごっこを繰り返した結果、ほぼ床全面にトイレシートを置くという事態にまで発展します。おしっこだけでなく、うんちまでするからなかなかキツいものがあります。こんな生活がずっと続くのかと思うと絶望しかありませんでした。むしろこっちがこまちゃんです。

あとから調べると柴犬は特に警戒心が強いから同じ場所にトイレをしない(匂いを分散?)傾向があるらしいです。と同時にキレイ好きでもあるから、自分の生活場所ではトイレをしないということもあるらしく、とにかく今はまだ子犬だから我慢も効かずにしてしまうんだろうと自分を納得させこっちが我慢してました。

月日は流れ成長すると共に、家の中でうんちおしっこをしなくなりました。そうやって今に至るわけですが、壁や床やベッドなど木をかじられたりもしつつ、それでも今では外で飼うなんて考えられません。考えられませんどころか、家の中でもケージもなく自由にさせていますし、一緒の布団で寝ています。

実際に飼う前の、家の中で動物を飼わないという強いこだわりも、きっかけは自分のミスの負い目からですが、飼い始めるとまるっきり覆ってしまうという。

そういう、

「やる前に頭で考えてるのと実際やってからはまったく違う考えになることがあるよ」

ということの例え話として軽く言うつもりで書き始めたら、いつのまにやら長編になってしまったこの日記。これも、考えてたのと実際書くのとは違ってしまっているので、つまりは、

やってみなけりゃわからない

って話でした。

 

ちなみに、昼間は実家に預ける、というのを続けた結果、犬は外で番犬という発想しかなかった両親も、首輪を付けた状態で預けると「可哀想」って言ってすぐ外すようにまでなってしまいましたとさ。

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