(この記事は2020年12月28日、29日、30日の日記を一本にまとめたものです)
ちょっと昔話していいですか。
以前うちって、ディーラーの下請けやってたんです。◯ンダ系ディーラーから鈑金の仕事をもらってました。最初の頃は、もちろん一般鈑金の仕事をもらってたんですが、うちはひとりで営業してたので積載車で納車引き取りをやってたんです。
いまは使わないから積載車は手放してますけども、とにかく、そこのディーラーではうち以外にも何件か鈑金工場に出してましたが、他は2人で来て納車引き取りをやってたりしました。
で、うちは積載車があるからと、いつからか新車の作業が回ってくるようになったんです。それがかなり問題のある仕事で、新車に社外エアロを付けた仕様をそこの系列店舗でオリジナル販売しだしたんです。
その社外エアロの取り付けをやらされるようになってしまったんです。納車前の新車だから自走で引き取りというわけにはいかないですからね。
で、ホンダだったら、あ、ホンダいうてもうた。◯ンダだったら、モデューロだったり無限だったりのエアロなら新車で付けて販売してもいいでしょうけど、そうじゃない、一般的な社外エアロメーカーのエアロを新車につけて販売しだしたから、さあ大変だ。
これは、いろいろと面倒なことになりますよ。
お客さんは新車のつもりで買ってますでしょ。でもね、クルマに社外エアロを付けるっていうのは、本人が好んでやるならいいけど、不具合出たらどうすんのって感じですよ。社外エアロの実情を知ってる鈑金屋からしたらね。
で、そこのエアロメーカーもディーラー卸す用だから色も塗ってあるんです。
だから、うちでやるのは取り付けのみ。フロントバンパー、サイドステップ、リヤバンパーの3点キットです。このね、社外エアロのバンパー交換タイプってのが曲者で、合わないときは地獄ですよ。
普通はね、フィッテング作業してあわないとこは加工してから塗装するの。合わないんだから社外エアロなんて。
それが色つきで来てんだよ。どうやってフィッテングすんのって話。
フィッテングで割れたりしますよ。お客さんが選んで社外エアロ買ってつけてくれって言ったんなら、問題箇所は追加で料金掛かりますよって言えますよ。それが新車についてくるエアロの取り付け時に、例えば割れたらお客さんからお金取れます?
もう、この時点で、時空がねじ曲がってるのが分かりますよね。
曲がった時空の皺寄せはどこに来ますか?
取り付け業者です。はい、わたしです。
固定額、ディーラーから決められた3点エアロの取り付け工賃は15,000円です。積載車で取りに行って積載車で納車します。取り付け時には割れます。割れたらその割れは直します。割れを直したら塗装しなきゃなりません。塗装もします。
15,000円です。
私も若かったからね、頭に血が上り始めグツグツしてました。
そこで、あるとき事件がおこります。
この社外エアロメーカーのサイドステップは、ドアとサイドシルの隙間にはめ込んでビスどめタイプじゃなく、サイドシルの腹に両面テープで貼り付けるタイプだったんです。
このタイプのサイドステップをお客さんに取り付け頼まれてたとしたら、サイド貼り付けだから、あとあと両面テープのとこ浮いてくるかもよ。って言えるんです。ま、浮いてきたらまた来てよ的なことも言えるでしょう。
それが新車買ったときについてたエアロが浮いてきたらお客さんは、どうなります?
性格にもよるでしょうけど、そのお客さんは激怒したらしいです。そして、その激怒は担当営業から私に向かいます。元請け様の営業マンから激怒された下請け業者の私は、弱い立場、当然、
大激怒ですよ。
若かったからね。
「おまえら、ディーラーが、社外エアロ付けて売るなんてくそみてえなことやってるからだろうが!これは直すけどな、もう、お前らのとこの仕事はやんなえからなボケ!」
ってなりますよね普通。
そしてディーラーの下請けとしての取り引きは終わりました。
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塗装済みのエアロ3点キット。
フロントバンパー、サイドステップ、リヤバンパー。
これの取り付け工賃、元請けから決められた額は15,000円。
何件かある下請け鈑金屋の中で、当時、うちだけが積載車を持っていたがゆえに、こればっかりをやらされるようになってしまいました。
それでも「15,000円ならこんなもんだろ」的な手抜きはした覚えはなく、取り付け時にちょっとでも割れればそれを直して納めてました。
ところがある時、フロントから電話が掛かってきます。
「エアロが浮いてしまったので直して欲しい」ということでした。
私はすぐにわかりました。エアロメーカー指定の取り付け方では、あり得る不具合だったからです。
取りに行く道すがら「今度はメーカー指定の取り付け方じゃなく、こちらで用意した接着剤で付けるしかないな」と、不具合でたら直せばいいくらいの感覚でした。
しかし、営業所についた私を待ち受けてたのは、激怒している営業マンでした。
引き取りに行った私にその営業が開口一番こう言い放ちました。
「お前!なに手抜きやってんだよ!お客さん怒ってるぞ!」
私にしたら、「は?」です。謝る気なんてさらさらありません。
というか、なんだよ手抜きって?
「おいおい、それはエアロメーカーに言えよ」と私。続けてこういいます。
「大体な、新車に社外エアロつけて売るとかバカみてえなことやってっからだろが」
そしたら営業、
「お前、会社の方針に口出しすんのかよ!」
ときました。
口出しもなにも、サイドステップの両面テープのとこがちょっと浮いただけです。そんなものは社外エアロ、そして、このメーカー指定の取り付け方であればあり得る不具合です。サイドステップが取れて飛んでったわけでもなんでもないんですよ。そうならないようには付けてますしね。
両面テープのとこがちょっと浮いた。たったそれだけのことで客が激怒するようなものをなんで付けて売ってんだよってことですよ、こっちにしたら。
社外エアロのデメリットをちゃんと説明しないで売ってっからこういうことになんだろうが、ということですよ。
「どうでもいいから、直んのか直んねえのか、どっちなんだよ!」
ときたから、こっちも怒りが頂点です。
「これは直すけどな、お前らのとこの仕事は2度とやらねえからな!」
そして、今度は2度と外すことが出来ない接着剤を用いて、ガッチリ取り付けして納めました。そもそも最初から2度と外せないように付けることはできたんです。でもね、新車に取り付けだから、両面テープ浮くデメリットは知りつつも、2度と外れないってのはまずいかなと考えて、両面テープ浮くくらいのデメリットなら許容範囲かなと考えてやってて、決して手抜きしたわけではないんですよね。
それを作業者の話も聞かずに頭ごなしに「手抜き!」と罵ったわけですから、許せるわけもないですよ。
そんなことで、わたくし下請け側から、元請け様を切らせていただいたのでした。
ブチ切れてタンカきったのはいいが、さあ、仕事が無くなるぞ、大変だ。
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あんなこと言い放ったはいいけども、冷静になってからは、
「ディーラーからの入庫無くなってどうすんだよ〜」
と不安になってきます。
当時、2代目ステップワゴンの頃で、これが、あの、社外エアロ仕様も売れたもんだから、かなり忙しく、次から次へとその作業だったんです。
私はわりかし若いうち、26歳で独立して、この時は30くらいでまだ独身でした。なので、その部分では身軽だったというのもありますけど、それでもずっと入ってたディーラーからの仕事が一切なくなるとなるとかなりのダメージです。だんだん吐きそうなほどの孤独に襲われます。
モータースや中古車店、カスタムショップなどからもちょっとは入庫があったんですけども、このままじゃダメだと直需客獲得の必要性を感じました。
この時、2002年から2003年くらいのことです。
今思えば、なんであんなことしたんだろと思うような、新聞広告だったりポスティングなんかもやったりしました。ポスティングは、業者にチラシを作ってもらって、それを自分で手配りで個人宅のポストに入れていくというものです。
結構配りましたけど一件の問い合わせも来なかったですね。
で、ここで「もう紙はらちがあかん」とホームページの作成に取り掛かり出します。2003年当時は鈑金屋でホームページ持ってるところがまだまだ少なかったです。
今は無いですが、その頃はYahooでホームページのカテゴリ分けがあり、都道府県ごとの鈑金屋のカテゴリもあったんですけど、うちでホームページ作ったときには県内ではうち含めて6件しかありませんでした。
それで、他のホームページはあまり更新がされてなかったんですけども、うちは実際やっている作業を公開するかたちで更新していきました。
その頃って、インターネットでは、簡単なHTMLで作ったサイトに、画像と共にひょうげた言い回しでネタ文を綴るという『テキストサイト』が流行ってた頃で、面白かったのでそれらを参考にしてホームページを作りました。
画像と文章を交互に入れてくテキストサイトの形式は、作業を説明するにも合ってたんです。
で、作ったホームページにアクセス促すようにアドワーズ広告をやりました。
検索ワード、たとえば「クルマ キズ修理」というワードを設定しとくと、そのワードで誰かが検索するとうちのホームページがトップに出て、クリックされると、そのワードワードで単価が違いますが、ワンクリック何円とかが掛かるんです。予算設定してそれが無くなるとそれ以上は表示されなくなるというものです。
そんなふうにやってたら、ちょこちょこホームページから入庫が来るようになってきて、その後、更新はブログに移行していきます。
ホームページで作業を公開していく中で気をつけようと思ってたことのひとつに「良く見せようとしない」というものがあります。いわゆる目を引くビフォーアフターはやめようと思ったんです。
壊れた状態から完成品を良く見せることが宣伝になると思いがちですが、自分はそうは思いませんでした。
とにかく、地味でも実際にやってる作業そのものを見てもらうようにしたんです。
なぜかというとそれは、あのディーラーとの一件があったからです。
あの営業マン、もちろんお客さんもでしょうけど、なんでたったあれだけのことで激怒したかというと、それはもう単純明快、理由はたった一言ですみます。
「知らないから」です。
社外エアロが完璧なものでは無いというのを、作業してれば知ってるんですが、売りたい人は完成品を良い写真使ってデザイン加工もするでしょう、とにかく『完成品』を良く見せて売ろうとします。だから作業途中は見せないんです。
それ見て買った方は、あの綺麗に撮影されたカタログの完成品のエアロが、気温変化で変形して浮いてくることなんてこれっぽっちも想像しないんですよ。素材も作る工程も見てないから。
だから、不具合がちょっと出ただけで激怒するんです。
怒るのは、知らないからなんです。
だから、そういうことを徹底的に説明しようと思ったんです。
そうやって、作業での失敗や問題点や不具合もブログで出し続けました。写真も改まって撮ったりしません。いいカメラなんか使っちゃダメだとすら思ってました、作業の合間合間の汚れた状態を安いデジカメでちゃっちゃか撮ってそれを出すのがリアルだからです。
でもって最初のホームページ更新時代の文章なんてひどいもんでした。当時、担当していた税理士さんに意見聞きたくてホームページ見せたら
「う」じゃなくて「お」じゃないですか?って真顔で言われて、「ん」ってなりました。
「このとおりです」を
「このとうりです」ってずっーと書いてたり。
「こうすると、こうなります」みたいな、そんな感じの一言二言を画像と共に綴ってました。文章書けなかったから。
今でも誤字脱字はありますけどね。それでも、不特定多数に何かを説明するに足る最低限の文章を書けるようになったのは、下手でも、知ってもらいたいという目的のための行動を続けたからです。
そして、その説明の仕方は、今のYouTubeにも反映されていると思います。
撮り方だったり編集の仕方だったり、説明もそう、それは「知ってほしい」という作業ブログをコツコツ続けてたからこそ出来ているものだと思うんです。
だんだんとYouTubeも登録者が増え、今朝の段階で8800人のチャンネル登録をいただいてます。(2020年12月当時)そうやって、多くの人にみてもらえるようになってきましたが、ここにつながるきっかけとなったのは、元を辿れば18年前、あのディーラーとの一件だったのではないかというのを、むっちゃんの散歩中に思い出しこの話を書き始めたはいいけど、長くなって3日にわたってしまいました。
当時、鈑金屋は、直接お客さんに来てもらうような業種ではありませんでした。
あくまでも、ディーラーだったりモータースの下請けという形での存在でした。
「独立だ」って言っても結局は決まった元請けから言われるままにやらされる身です。それってほんとに独立なんだろうか。
鈑金屋はそこから、もう一度できる独立があります。
元請けを離れて直接お客さんに来てもらう工場になることです。
鈑金屋は2度独立します。今の時代ならそれが出来ます。